日英21世紀委員会
日英関係の発展に強い関心を持っている政治家、財界人、学識者などが一堂に会する非政府フォーラムである日英21世紀委員会の第25回合同会議は2009年2月20日から22日にかけ、東京と小田原で開催されました。塩崎恭久日本側座長と英国側座長カニンガム卿が本会議の共同議長を務めました。
英国側委員は塩崎座長とともに2月20日、麻生太郎首相を表敬訪問しました。麻生首相は、日英21世紀委員会の設立25周年を祝した後、委員会からかつてのJETプログラムやワーキング・ホリデイ・プログラムに匹敵する新しいアイディアが出されることを希望すると語りました。麻生首相はまた、4月にロンドンで開催予定のG20首脳会議に向け、日英両国が協力関係を深めているところであり、日英21世紀委員会でも世界金融危機の問題が話し合われることへの期待を表明しました。
英国側座長カニンガム卿から麻生首相にゴードン・ブラウン英首相の親書が手渡されました。親書にはブラウン首相は本委員会を全面的に支援しており、日英両国は保護主義の脅威に立ち向かい、国際金融機関の改革を推し進め、世界経済の回復をめざし低炭素社会発展の道を推し進めるべく、協力していく必要があると表明されていました。また、日本が引き続き英国を最良の投資先、ビジネス・パートナーと見なすことへの期待も添えられていました。これに関し、カニンガム卿は、航空宇宙、運輸、車輌などの分野には、両国が低炭素プロジェクト開発に向けて協力する多くの可能性を秘めていることを強調し、また、日本のIMFに対する記録的融資を賞賛しました。これに対し麻生首相からは、世界経済危機は深刻ではあるものの、それによって新しい機会がもたらされたという側面もあるとの発言がなされました。麻生首相は低炭素社会発展の方途を追求することで、新しい技術に関する二国間協力がより一層深まるであろうとの見方にも賛意を示しました。
カニンガム卿は、今回のG20ロンドン会議も、前回のロンドン会議やコペンハーゲン会議と同じテーマを扱い、合意に向けた政策提言を作成すべきだと提案しました。卿は麻生首相が外国首脳として初めてオバマ新大統領と会談されることを祝し、英国は引き続き日本の国連安全保障理事会入りを支援していることを改めて言明しました。麻生首相は、米国のクリントン新国務長官がアジアを最初の海外訪問先に選んだことは重要であると述べ、またオバマ大統領が地球温暖化への対応に個人的に関心を寄せていることに言及しました。
日英21世紀委員会は1984年に当時のマーガレット・サッチャー首相と中曽根康弘首相によって設立されたもので、日英両国で毎年交互に会議を開いています。過去の会議に関する詳細は、日本国際交流センター(JCIE)のウェブサイトをご覧ください。
座長ステートメント
第一セッション:日本と東アジアにおける最近の進展
自由民主党の伝統的な勢力基盤と官僚機構に弱体化がみられます。日本政治は岐路に立っており、ガバナンス上の大きな変動が改革を促進することも可能になっているとみる出席者もありました。世界的な経済危機は、日本の雇用事情に壊滅的な影響を及ぼしている。今回の危機が国家主導の資本主義という考え方の正当性を立証したと確信する人もいるという観察もあります。
世界経済危機が東アジアにも重大なインパクトを及ぼしており、それによって中国と南北朝鮮を巡る環境がより一層不確実になってきています。米国や欧州が保護主義の方向に傾けば、中国も同様の動きをとるであろうから、結果は悪循環となります。米国、日本、中国の三国間関係を深化させることの重要性も強調されました。日本は将来、その労働力需要や域内貿易・投資拡大のニーズに関し今後ますます大きく東アジアに依存することになるであろう。ロシアの最近の日本へのアプローチは、資本需要と中国に対するカウンターバランスの必要性を反映したものとみられています。
このセッションでは、また日英関係の現状も議論されました。日本は引き続き、政治のモデルとして英国に関心を寄せています。両国は国際的には共通の目的を多数共有しています。現下の金融危機に対しては、全世界的要素、地域的要素、二国間の要素からなる多層的対応が提唱されました。
第2セッション:英国と欧州における最近の進展
英国と欧州に関する議論で中心になったのは世界的金融危機の問題であった。この危機によりリスボン条約が締結される可能性が高まったものの、保護主義の強化も招いています。この危機のインパクトの強さはまちまちであると言わざるを得ません。たとえば東欧州はもっとも深刻な打撃を受けています。ユーロ圏も金融政策と財政政策の矛盾の影響で緊張が高まっているが、最終的には結束を強めるでありましょう。ユーロは依然としてドルに対する魅力的な代替通貨であります。銀行の国有化は大いにありえます。ドイツと英国の選挙は重要であり、双方とも野党側が健闘することが予想されます。国家の役割を拡大させることが求められたり、大陸欧州側にアングロサクソン型市場指向モデルの失敗に対する「他人の不幸を喜ぶ」的態度が高まったりすることもありましょう。同様の感情は、日本を含め、世界各地にもみられます。
危機が社会的に影響を及ぼし、例えば保護主義や若者の失業、反移民感情、および地域所得格差の拡大等の問題が台頭することへの懸念が聞かれました。英国はインフラと職業訓練に投資する必要があります。また、将来、高度のインフレを招く可能性もあり、英国債の発行に対して若干の懸念も聞かれたが、出席者は、英国の経常収支は英ポンド安と家計貯蓄の増大によって改善されると自信をみせました。
第三セッション:米新大統領の誕生が世界ガバナンスにもたらす影響
オバマ新政権が、実際にはどの程度の変化を米国政治や外交政策にもたらすことになるかについての質問が提起された。米国は恐らく一国単独主義から多国主義に移行するでありましょう。米国は引き続き卓越したパワーであり続けるであろうが、圧倒的パワーではなくなるでありましょう。オバマ大統領が成功するか否かは、米国の同盟国の支援に懸かっています。オバマ政権は北朝鮮およびイランに対しては包括的交渉を追及するでありましょう。
オバマ政権の誕生により、日英間により深い協力関係を築く機会が到来しました。英国は、平和維持や軍民関係に関し、日本にとって有益な教訓を提供できるでありましょう。両国は、例えばアフガニスタンの場合のように、国際的にこれまで以上の軍事支援を求める米国からのプレッシャーにどう対応するかを決めなければなりません。両国はまた、ルールに根ざした、開かれた世界システムを支援し、米国の保護主義の台頭に対抗することに共通の利害を有しています。日英両国は米新政権の核軍縮への関心を利用して、包括的核実験禁止条約に署名するよう促すことができる可能性があります。
国際機関の改革に対するアプローチに関しては日英間に差異がみられました。英国側は既存のグループに中国、インド、その他の諸国を加えるべきだとみているのに対し、日本側はたとえばG7のように、志を同じくする主要民主主義国家による中核グループはそのまま保ち、ここに場合によっては韓国を加えるというアプローチを想定しています。英国政府はG20を制度化すべきか否かに関しては公式に発言していないが、G20ロンドン首脳会議が成功した場合、次回のG8首脳会議やコペンハーゲン気候変動会議に対してよい前兆となるものと注目しています。
提言
- 日英両国は、米国その他の主要経済大国における保護主義にどのように対応すべきかを協議すべきである。
- 日英両国は、米国に包括的核実験禁止条約に署名するよう、協力して働きかけるべきである。
- 日英両国の協力を通じて、米国を加えた三国協力関係により、それぞれの国の持つ固有の強みと経験を活用できるような形で、開発援助を促進する機会を求めていくべきである。
- 米国の親密な同盟国として、日英両国は、例えば平和維持活動など、安全保障問題に関する二国間協力を拡大する可能性を探るべきである。
第四セッション:世界金融・経済危機への対処
世界金融・経済危機のインパクトは国によって異なる。日本では、金融危機というよりも経済危機となっています。アジア諸国からの輸出品に対する海外需要が霧消してしまいました。他方、ユーロ圏では、共通金融政策と各国個別の財政政策のミスマッチが大きな問題を引き起こしています。
今後の金融政策は、様々なアセットの価格変動を考慮に入れて策定されなければなりません。そのためには、世界の金融市場に対する規制を改善する方策が必要となりましょう。この過程に、新興経済国を関与させることが重要であります。これまで以上に厳しい規制が必要となろうが、過剰規制や金融保護主義を避けることも重要であります。リスク・マネジメントを改善し、新しい損失補償手段を開発することが求められています。銀行は、現状維持はもはや政治的に認められないことを自覚し、消費者の信用を取り戻すために懸命に努力する必要があります。
日本の銀行のバランス・シートは、欧米の銀行よりも遥かに健全であります。過去の金融危機における日本の経験から、公定歩合を下げ量的緩和を行う政策から乖離することは政治的に難しいことがわかっています。さらに高齢化の進行が、高齢者は貯蓄を抱え込む傾向が強いため、内需拡大にむけての政府努力をより一層複雑化させています。これに比べれば、発展途上諸国における成長を刺激する方が比較的容易であります。
危機に対処するためにはどのような行動がとられなければならないかに関し、各国間のコンセンサスが得られなければなりません。また、保護主義は何としります。迅速な行動が求められてはいるが、こうした行動が中長期的に危険な結果をもたらしうるという可能性が行動を遅らせる結果を生んでいます。
日本で資産運用投資を行っている英国企業は、日本における企業ガバナンスの実態を見直すという経済産業省の措置を歓迎します。しかしながら、これまで以上に独立の社外重役を増やし、透明性を高めることが求められています。
提言
- 英国は、過去の金融危機における日本の経験から学ぶべきである。英国は日本の銀行救済を複雑化させた政治問題に特に大きな関心を払うべきである。
第五セッション:エネルギーと環境をめぐる共通課題
当セッションの議論は、日本と英国それぞれにおける炭素排出削減行動計画についてのプレゼンテーションをもとに展開されました。日本政府は、地方自治体と協力して民間の住宅や職場からの炭素排出を削減する努力を計画しています。英国では、2008年気候変動法により排出削減が法律により義務付けられました。発電の低炭素化を可能にする二酸化炭素の回収・貯蔵の試みが北海海底で展開されています。両国間のアプローチの主な違いは、英国側が立法化を活用しているのに対して、日本側は自主努力に重きを置いていることであります。
それぞれの計画が一つ目標としているのは、現在の世界レベルの排出率を10%で安定化させることであります。そのためには、世界各国が排出量を2020年までに削減し始め、その後50年間は着実に削減し続けることが必要となる。この試みにおいて鍵となるのは、米国、中国、EU諸国、ロシア、日本、インド、および他のOECD加盟国であります。これら諸国は合計で地球全体の二酸化炭素排出量の7割以上を排出しています。特に米中協力が死活的に重要となります。オバマ新政権のグリーン・ニューディール政策は、米国政策の積極的方向への大転換を示しています。
日英間では低炭素共同プロジェクトが進展しています。日英21世紀委員会の以前の提言に従い、ロールス・ロイス社と独立行政法人物質・材料研究機構(NIMS)が共同プロジェクトに着手しました。シャープ株式会社とヤマハ株式会社も英国内でプロジェクトを展開しています。更に潮力発電、オープン・ローター型エンジン、高温度素材、航空業界、発電、陸上輸送、建設などの分野にも共同プロジェクトの機会が存在します。
原子力エネルギーの利用拡大に関しては強い賛同がみられました。英国の場合と異なり、日本は原子力産業の開発を中断したことがこれまで一度もありません。原子力のノウハウや核燃料サイクル開発、核材料の安全保障、二酸化炭素回収・貯蔵、地熱エネルギー、および電気自動車、水素自動車等の分野で、日英間でエネルギー協力を実施できる機会が存在します。コペンハーゲン会議の成功にむけ、日英で協力していくことが重要であります。二国間協力に加えて、両国とも第三世界諸国の低炭素社会達成を支援すべきであります。中国との協力を密にすることに加え、日本はモザンビークにおける太陽光パネルプロジェクトにも出資しています。英国はインドの二酸化炭素回収・貯蔵のための発電所建設支援を検討しています。
現下の世界金融・経済危機が二酸化炭素排出削減に向けて既に実施されている試みの進展を脅かすのではないかとの懸念が聞かれていました。確かにグリーン・エネルギー・プロジェクトへの出資は下降気味であり、原油価格の低下により代替エネルギー源開発の魅力も以前ほどではなくなってきています。しかし、日英両国は、こうした努力に対する社会的支援を維持させるべく、積極的措置をとっていく必要があります。
提言
- 日英両国は、低炭素型社会成長戦略を共同で実施する機会を模索すべきである。例えば、英国の2008年気候変動法を実施に移すための共同プロジェクトなどがその機会の一つとして考えられる。
- 日英両国は、航空や発電(例えば潮力発電)、陸上交通などの分野で低炭素技術を使った解決法を見極め、探求する共同環境ワーキング・グループを、両国政府の支援を得て設置することを検討すべきである。
- 日英両国は、低炭素都市環境をどうやって達成するかを解説する詳細なガイドラインを開発するための共同プロジェクトの設置を検討すべきである。ガイドラインの中には、最新の設計と、エネルギー効率を高め、二酸化炭素排出を削減するための先端技術をどう統合させるかに関する提言も含まれる。
- 日英両国は、コペンハーゲンにおけるCOP15会議の成功に向け、緊密に協力すべきである。
- 日英両国は、地熱エネルギーと二酸化炭素回収・貯蔵に関するワーキング・グループの設置を検討すべきである。
- 日英両国は、電気自動車、水素自動車の英国への本格導入を導くためのビジネス開発ワーキング・グループの設置を検討すべきである。
- 日英両国は、原子力材料やサービスの安全性を高め、再利用に関する情報を共有すべく、協力していくべきである。
終わりに
日英21世紀委員会は、設立25周年を迎えることが出来たことの重要性を改めて確認しました。将来の二国間協力に向けての提言が数を増していることに現れているように、本委員会の活動には弾みがついています。本委員会は、英国における日本研究の進展に向けて果たした大きな役割に鑑み、両国政府が大学院レベルの教育・研究にこれまで以上に出資することを提言します。